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AI導入の実務

AI活用ワークショップの選び方──「勉強になった」で終わる会と、動き出す会の違い

AI研修・ワークショップは各社が提供していますが、内容は大きく違います。実際に実施した2種類のワークショップの設計・当日の時間配分・成果物を材料に、「終わった翌週に何が残るか」で選ぶ基準・発注前に聞く5つの質問・成果の測り方を書きます。

率直にお伝えすると、私たち自身もワークショップを提供する事業者です。だからこそ、ポジショントークを排し、「どこに依頼するとしても使える判断基準」だけをまとめました。結論から言えば、基準は1点のみです——終わった翌週、手元に何が残るか。

この記事では、私たちが実際に実施した2種類のワークショップ(職種横断のアイデア出し型と、興味喚起のイベント型)の設計・当日の時間配分・成果物を材料にして、発注前に確かめるべきポイントを整理します。提案書では見えない「当日そこで何が起きるか」まで具体的に書きます。

この記事でわかること

  • 「AI研修」と呼ばれるものの3タイプと、自社に必要なのはどれか
  • 発注前に聞くべき5つの質問と、答えで何が分かるか
  • 当日の時間配分から質を見抜く方法
  • 成果を測るためのアンケート設計(満足度だけ取っても意味がない)
  • ワークショップが不要なケース

「AI研修」と呼ばれるものは、3タイプある

同じ名前でも中身がまったく違います。まずここを区別しないと、比較のしようがありません。

同じ「AI研修」でも、終わった時点で手元に残るものが違います
同じ「AI研修」でも、終わった時点で手元に残るものが違います

3タイプの違い

タイプ目的終わった時点で残るもの向いている状態
①知識インプット型AIの現在地を知る知識・危機感「AIって何?」の段階
②ハンズオン型ツールを操作できるようになる操作スキル使うツールが決まっている
③アイデア出し型自社で何をやるかを決める着手すべき施策の一覧と優先順位「何から手をつけるか分からない」

一番多い失敗

「何から始めるか分からない」状態の会社が、①や②を発注してしまうケースです。知識は増え、操作もできるようになりますが、翌週になると「で、うちは何をやるんだっけ」に戻ります。多くの会社が最初に必要としているのは③です。にもかかわらず、市場に出回っている研修の多くは①か②の形をしています。作りやすく、売りやすいからです。

そして③には、さらに2つの型があります。私たちが実施しているものも、目的によって設計がまったく変わります。

③アイデア出し型の中の2つの型

業務棚卸し型興味喚起イベント型
目的着手すべき施策を決める社内でAIに興味を持つ人を増やす
参加者職種横断のリーダー層部署を問わず、手を挙げた人
雰囲気会議室・真剣飲食あり・カジュアル
時間約3時間60〜75分+懇親会
主な中身業務の洗い出し→2軸で整理→発表最新ニュース→クイズ→実演デモ→少人数の議論
成果物優先度つきの施策一覧参加者の「面倒だと感じている作業」リスト
効く場面推進担当が決まっている推進担当がまだいない/社内の温度が低い

社内の温度が低い段階でいきなり業務棚卸し型をやると、「やらされ感」だけが残ります。逆に、推進する意思がすでにあるのにイベント型をやると、物足りません。自社がどちらの段階かを、先に見極めてください。

発注前に聞く5つの質問

01

「終わった時点で、何が手元に残りますか」

最も重要な質問です。「気づき」「学び」といった答えしか返ってこないなら、①型だと考えてください。私たちが業務棚卸し型で渡しているのは、施策名・対象職種・概要・実装イメージ・現状の課題と注意点の5項目を埋めた一覧です。実際にある案件では37個のアイデアが出ました。うち33件を優先度別に分類し、そのすべてについてこの5項目を書き込んでお渡ししています。

  • 書類の自動生成 →「契約書は法務チェックが必須のため、完全自動化は難しい」
  • 議事録の自動作成 →「対面会議の録音環境の整備が必要」「専門用語の認識精度」
  • 稼働の可視化 →「社員の監視感によるモチベーション低下」

ここで効くのが最後の「現状の課題・注意点」欄です(上の例がその実物)。できることだけを並べた資料は、着手した瞬間に止まります。できない理由まで書いてあるかどうかが、そのまま実行可能性の差になります。

02

「うちの業務を題材にできますか」

汎用サンプルで演習する形式だと、翌週に接続しません。自社の実業務を持ち込めるかを確認してください。

業務棚卸し型なら「参加者が自分の面倒だと思っている作業を持ち寄る」形になっているか。イベント型なら、デモの題材が自社の業務に近いか。私たちがイベント型でデモを見せるときは、その会社の実務に近い題材を使います。汎用のデモでは「すごいけど、うちには関係ない」で終わるからです。

03

「参加者は誰を想定していますか」

ここで設計が変わります。職種横断のリーダー層なら業務の幅が出て組織全体の課題が見えますが、日程調整は難しくなります。特定部署のみなら議論は深くなる一方、横展開しにくい。手挙げ制は温度の高い人が集まりますが、全体の底上げにはなりません。経営層を含めると決裁は速くなる反面、現場が本音を言いにくくなる場合もあります。

職種横断でやる意味は、実際のアンケートにも表れました。「特に良かった点」として挙がったのが「皆さん自分の業務で面倒に感じていることが結構多いんだなと思えたところ」という声です。個人の困りごとが、実は組織全体の課題だったと分かる。これは1部署だけでは起きません。

04

出たアイデアの「できない理由」も書いてもらえますか

01の裏返しですが、独立して聞く価値があります。限界を書ける会社は、その領域を実際にやったことがある会社です。

「なんでもできます」と言う相手からは、実装イメージの解像度が出てきません。逆に「これは現場知識が不可欠なのでAIだけでは無理です」と言える相手は、判断材料をくれます。

05

「終わった後、誰がその後を追いますか」

ワークショップ単体では組織は変わりません。次に何をするかが決まっているかを確認してください。

  • 出た施策のどれから着手するかを決める場は設定されているか
  • 施策を実行する担当は誰か
  • 次の接点(勉強会・ハンズオン・PoC)は予定されているか

ここが空白のまま発注すると、一覧表が残って終わります。

当日の時間配分で、質が分かる

提案書に当日のタイムテーブルが含まれていれば、配分を必ず確認してください。インプット(講義)が全体の半分以上を占めているなら、それはワークショップではなく、単なる講義です。私たちが3時間のセッションを組む場合、インプットは全体の3割にとどめ、残りの7割を発散と収束に充てます。前提知識を揃えるためのレクチャーはもちろん必要ですが、それは本番に入るための準備にすぎないからです。

実際の配分(約3時間のワークショップ)

パート時間中身
第1部:インプット約70分業界のAI活用事例・エージェントの解説・ツール紹介
第2部:アイデアレーション約65分業務の洗い出し→2軸マッピング→グループ発表

インプットを前半に置くのは、「AIに何ができるのか」の解像度を揃えておかなければ、出てくるアイデアが表層的なものにとどまるためです。ただし、このパートを長引かせすぎると、現場のアイデアを発散させる貴重な時間が削られてしまいます。

収束まで当日中にやるか

見落とされがちな分岐点です。アイデアを出すだけで終わる設計と、その場で優先順位までつける設計があります。私たちは実現可能性 × インパクトの2軸で、当日中にマッピングまでやります。ホワイトボードや模造紙に貼りながら、4象限に配置していく形です。

37個のアイデアのうち33件を4象限に整理した結果。Sの上から着手するだけの状態にします
37個のアイデアのうち33件を4象限に整理した結果。Sの上から着手するだけの状態にします

この整理まで当日中にやってしまうと、翌週には「Sの上から着手する」だけの状態になります。後日整理する形式だと、その資料が届く頃には熱が冷めています。

成果の測り方——満足度だけ取っても意味がない

ここは発注側の視点でも重要です。「満足度は5段階で4点台でした」という報告は、ほとんど何も語っていません。参加者は、面白い会であれば満足します。しかしワークショップの目的は楽しませることではなく、翌週から何かが変わることです。だからアンケートも、そこを測る設計にする必要があります。

イベント型で実際に取っている項目

取りたいもの設問何に使うか
施策効果の定量化参加前/参加後のAIへの興味度(1〜5)前後の差分が唯一の成果指標
認識の変化AIのイメージ(前後で同一選択肢)+変化の強度+自由記述「チャットのAI」→「任せられる担当者」への移行が起きたか
勝ちコンテンツの特定面白かった内容(複数選択)+理由次回の構成に直結。効かなかった枠は削る
次の施策の種「面倒だと感じている作業」(必須・記述)ここが本命。次のハンズオンやPoCの題材リストになる
フォロー先の抽出今後やってみたいこと+名前(任意)個別相談を希望した人=次に動ける人

4つ目が実務的には最も価値があります。手を挙げにくい人の業務課題を、記述式で回収できるからです。

アンケート設計の作法(数字の信用度が変わります)

  1. 1ネガティブな選択肢を必ず入れる — 「むしろ思ったほどではなかった」を選べるようにする。全員がポジティブに振れる設計にすると、信用できない数字になります
  2. 2「特にない」「様子見」を明示する — 無理にポジティブを選ばせると、データが濁ります
  3. 3自由記述の必須は2問まで — 回答率が落ちます
  4. 4名前は任意 — 匿名で率直に書ける状態を優先し、フォローが欲しい人だけ名乗る形にする
  5. 5⚠️ 事後に「参加前」を聞く場合、回想バイアスが乗る — 絶対値ではなく差分の傾向として扱うべきです

参加者に何が起きるか

設計の話が続いたので、当日その場で何が起きるかを具体的に書きます。職種横断で集めると、最初の30分で必ずこうなります——自分だけの面倒だと思っていた作業を、他の部署も同じように抱えていたと分かる。

この瞬間に、話が「自分たちの話」になる

個人の困りごとが、組織全体の課題として可視化される。ここを通過すると、AI活用が「情シスか誰かがやる話」ではなくなります。私たちが職種横断での参加にこだわるのは、この転換を起こすためです。1部署だけで集まっても起きませんし、講義形式でも起きません。業務を持ち寄って並べたときにだけ起きる現象です。

もう1つ、発注側に知っておいてほしいことがあります。同じ会をやっても、参加者によって刺さるパートは違うということです。すでにAIを使い込んでいる人はデモを「知っている」と感じ、これから触る人ほどデモで衝撃を受けます。

だから私たちは、アンケートをコンテンツ別・層別に取ります。「全体の満足度」ではなく「誰にどのパートが効いたか」を見れば、次回の構成をその会社に合わせて組み替えられるからです。回を重ねるごとに精度が上がるのは、この運用をしているからです。

だから、発注時にこれを聞いてください

  1. 1実施後にアンケートを取るか、そしてその結果を共有してもらえるか
  2. 2アンケートがコンテンツ別の評価を取る設計になっているか(全体満足度だけでは次に活かせません)
  3. 32回目以降、結果をどう構成に反映するか

ここに具体的に答えられる会社は、実施記録を取って改善している会社です。「やって終わり」にしない運用ができているかどうかが、この3問で分かります。

ワークショップが不要なケース

該当するなら、別のことにお金を使ってください

  • すでに着手すべき施策が決まっている — アイデア出しは不要です。そのまま実装に進むか、開発会社の選び方に時間を使ってください
  • 特定ツールの操作だけ覚えたい — ②のハンズオン型か、実践型の研修の方が適しています
  • 経営層が「AIをやる」と決めていない — これが最も重要です

3つ目を補足します。ワークショップは現場の機運を作る施策なので、上が動かない前提では逆効果になります。「アイデアを出したのに何も起きなかった」という記憶は、次の施策を確実に難しくします。参加者の時間を使って期待値を上げた以上、少なくとも1つは着手する。この覚悟がない段階では、やらない方がましです。

逆に、効きやすい条件

  • AI推進担当がまだいない/決まったばかり — 何から手をつけるかを決める場が社内に存在しない状態
  • 職種横断でリーダーを集められる — 業務の幅が出ると、組織全体の課題が見えます
  • 社内だけでは会議の予定が埋まらない — ここが意外に大きい要因です

最後の点について。社内だけで「AI活用を考える会議」を設定しようとすると、全員忙しいので永久に後回しになります。外部との予定として確定させてしまえば、その日は必ず全員が集まる。ワークショップの価値の半分は、この強制力にあります。

発注前チェックリスト

そのまま商談で使えます

  1. 1自社に必要なのが①知識/②操作/③アイデア出しのどれかを決めた
  2. 2③なら、業務棚卸し型と興味喚起イベント型のどちらかを決めた
  3. 3終わった時点で何が残るかを、成果物の形で確認した
  4. 4成果物に「できない理由・注意点」の欄があるかを確認した
  5. 5自社の実業務を題材にできることを確認した
  6. 6タイムテーブルを見て、インプットが半分を超えていないことを確認した
  7. 7優先順位づけまで当日中にやるかを確認した
  8. 8アンケートが満足度だけでなく、前後の変化と次の題材を取る設計か確認した
  9. 9実施後のアンケート結果を共有してもらえるかを確認した
  10. 10終わった後の次の接点と担当者が決まっている
  11. 11経営層が「1つは着手する」ことに合意している

最後の項目が埋まっていないなら、発注はまだ早いです。

まとめ

AI活用ワークショップを選ぶ基準は、「終わった翌週、手元に何が残るか」の一点です。知識か、操作スキルか、着手すべき施策の一覧か。自社に今必要なものを見極めてから発注してください。

そして、成果を測るなら満足度ではなく前後の変化を見てください。満足度は高く出ます。本当に見るべきなのは、AIに対する認識が動いたか、そして次に着手する題材が具体的に集まったかです。

実際の実施内容はAI活用ワークショップで、現場から37個のアイデアが出た日にまとめています。ワークショップの後に社内でAIの話を続ける仕組みは社内AI勉強会を月1で続けているを、推進を1人で任されている方はAI推進をひとりで任された人が、最初にやるべきこともあわせてどうぞ。

掲載内容について

クライアントの許諾範囲で、社名は伏せています。アイデアの件数・優先度別の内訳・当日の時間配分・参加者の声は、実際の実施記録にもとづきます。

同じ取り組みを、貴社でも。

貴社の状況にあった進め方を、無料の壁打ち(30分)で一緒に整理します。ワークショップ・研修の実施例はこちらから。

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