社内AI勉強会を月1で続けている──非エンジニア企業でやっている進行の中身
「AI勉強会を1回やったが、それきりになった」という声をよく聞きます。不動産テック企業と月1で運営している社内AI勉強会の実際の進行台本を公開します。4部構成の中身・デモの手順と保険の掛け方・お題の文言・アンケート設計、そして第1回の反響データまで、そのまま再現できる粒度で書きます。
社内AI勉強会が継続しない理由は、コンテンツの質にあるわけではありません。「聞いて終わる会」になってしまっているからです。参加者が自身の業務に持ち帰れるものがない構成では、2回目以降の参加率は確実に落ちていきます。
この記事では、不動産テック企業と月1回ペースで共同運営している社内AI勉強会の実際の進行台本を公開します。4部構成の中身やデモの実演手順、議論を深めるお題の文言からアンケートの設計まで、自社でそのまま再現できる解像度でまとめました。
あわせて、第1回の実際の反響データも公開します。どのコンテンツが刺さり、参加者から次に何の要望が出てきたのか。社内でAIの話が続く状態をどう作るかが、数字で見えるはずです。
この記事でわかること
- 継続する勉強会の4部構成と、各パートの狙い
- その場で見せる実演デモの組み立て方(トラブルを防ぐ保険の掛け方まで)
- 参加者の認識を揺さぶるディスカッションのお題設定
- 「満足」で終わらせない事後アンケートの設計法
- 第1回の実際の反響データと、そこから次の施策がどう生まれたか
設計思想:「知る会」ではなく「認識が書き換わる会」
この勉強会の狙いは、AIに関する知識をインプットすることではありません。「AIはチャットで質問に答えてくれるツール」という認識を、「指示を出せば一連の仕事をやり切る担当者だ」へと書き換えることです。
この差は決定的に重要です。前者の認識にとどまっている限り、AIは「調べ物が少し速くなる道具」の域を出ません。しかし後者へと変われば、「この業務をまるごと任せられないか」という発想が現場から自然と湧き上がってきます。勉強会1回の成否は、この認識の変化を起こせたかどうかで決まります。
この会の位置づけ——単発のイベントとして扱わない
| 施策 | 役割 |
|---|---|
| 月1の勉強会(この記事) | 入口。興味を持つ人の数を増やす |
| 全社ワークショップ | 業務を棚卸しして、着手する施策を決める |
| マンツーマン研修 | 実際に作れる人を育てる |
| 業務Agentの実装 | 成果を出す |
勉強会で現場から上がった「面倒な作業」が次の実装テーマになり、実装した成果が次回のデモ素材になる——この循環が回り始めると、社内のAI活用は「特別な取り組み」ではなく日常の業務へと溶け込んでいきます。
当日の4部構成
全体の所要時間は60〜75分。お酒や軽食を用意し、リラックスした雰囲気で進行します。堅苦しい研修スタイルにしないことが、参加への心理的ハードルを下げるポイントです。

第1部の構成(60〜75分)
| パート | 時間 | 中身 |
|---|---|---|
| ① 最新AIニュース共有 | 12〜15分 | 1本2〜2.5分。動画か数字を必ず見せる |
| ② 「本物 or AI」クイズ | 10分前後 | 実写とAI生成動画を混ぜて当てさせる |
| ③ 実演デモ | 15分前後 | チャット vs エージェントを対比。自社業務を題材に |
| ④ ディスカッション | 20分 | 画用紙に書き込みながら、小グループで議論 |
| (懇親会) | — | 続きの話がここで出ます |
「ニュース:この1ヶ月で何が起きたか」
構成の基本ルールは、「えっ、AIはもうここまで来ているの?」という驚きに「少し先の未来の話」を掛け合わせることです。1本あたり2〜2.5分でテンポよく進め、必ず動画か具体的な数字を提示します。文字だけのスライドでは、聞き手の集中が続きません。
第1回で取り上げたのは、ロボットの実用化事例、AI生成動画、AI生成音楽、探索可能な3D空間の生成、そして近い未来に訪れる変化についてでした。⚠️ ここで手を抜かないこと。ニュースは一次情報まで裏を取り、実在する動画URLを確認しておきます。推計値には「⚠️」をつけ、断定と推測を分けて話します。社内の勉強会であっても、誤った情報を配れば信頼を失います。
「本物 or AI」クイズ:手を動かして体感する
実写の映像とAI生成の映像を混ぜて見せ、どちらかを当ててもらいます。ネタばらしのときに「見分けられる人は1割以下」という実験結果を伝えると、体感が言葉になります。
この形式が効くのは、参加者が受け身にならないからです。挙手なり声出しなりで全員が参加するので、そこから場の空気が変わります。
「実演デモ:自社の業務を、その場で動かす」
ここが設計の核心です。汎用のデモでは「すごいけど、うちには関係ない」で終わります。だからその会社の実務に近い題材を使います。不動産テック企業でやったときは、実在の物件情報(公開情報)を題材にしました。
- Before:普通のチャットに、情報を与えず「物件紹介文を書いて」と頼む → 当たり障りのない一般論しか出ない。それっぽいだけ
- After:エージェントに一言だけ指示する → 自律でWeb調査→3ターゲット別の紹介文→競合比較表まで一気に生成
- 並列:別ウィンドウで、同時にもう1件走らせる → 人間1人が、2つの仕事を同時に進めている画
Before/Afterの対比が要です。いきなりすごいものを見せても、何がすごいのか伝わりません。「いつものAI」を先に見せてから落差を作ります。締めのメッセージは2つに絞ります——「1人で半日かかっていたものが数分」「これは便利ツールではなく、働き方が変わる話」。
ライブデモには必ず保険をかける
会場のネットワークは信用できません。私たちは①事前に同じ手順を録画しておく、②完成版の出力ファイルを手元に用意しておく、の2段構えにしています。事前のリハーサルで一度通し、出力に違和感がないか・固有名詞や数字に誤りがないかも確認します。ライブでやる場合は、参加者に「どのエリアを見ますか?」とその場で聞いて題材を決めると、やらせ感がゼロになります。
「ディスカッション:画用紙を使って全員で考える」
スライドではなく画用紙とペンを配ります。手を動かすと、発言しない人も参加できるからです。小グループに分けて書き込んでもらいます。第1回で使ったお題は、この2つでした。
- 「人間」の価値は、どこに残る? — AIが"本物そっくり"を何でも作れる時代に
- 自社の「変化する要素/変化しない・変化したくない要素」 — 変えていく仕事と、人間だからこその強み
1つ目で視野を広げ、2つ目で自社の話に着地させる。この順序が効きます。いきなり自社の話から入ると、現状の業務の延長でしか考えられなくなります。
「やって終わり」にしない:事後アンケートの設計
満足度だけを聞くアンケートは、次に繋がりません。次のアクションの材料を取りに行く設計にしています。
何を測り、どう使うか
| 取りたいもの | 設問 | どう使うか |
|---|---|---|
| 施策効果の定量化 | 参加前/参加後の興味度(1〜5) | 前後差分を成果指標にする |
| 認識の変化 | AIのイメージ(前後で同一選択肢)+変化の強度+自由記述 | 「チャットのAI」→「任せられる担当者」への移行が起きたか |
| 勝ちコンテンツの特定 | 面白かった内容(複数選択)+理由 | 次回の構成に直結。効かなかった枠は削る |
| 次の施策の種 | 「面倒だと感じている作業」(必須・記述) | 本命。次のデモ/ハンズオン/PoCの題材リストになる |
| フォロー先の抽出 | 今後やってみたいこと+名前(任意) | 個別相談を希望した人=次に動ける人 |
設計上の作法
- 1選択肢は「段階」にする — 「賢い検索・相談相手」→「作業道具」→「一連の仕事を任せられる担当者」の順に並べ、"担当者"を選んだ人の割合が前後でどれだけ増えたかを見ます
- 2ネガティブな選択肢を必ず入れる — 「特にない」「様子見」「むしろ思ったほどでは」を明示します。全員がポジティブに振れる設計にすると、信用できない数字になります
- 3全20問・3〜4分に収める — 必須の自由記述は2問だけ。懇親会の後に配るので、指を動かす回数を最小にします
- 4名前は任意 — 匿名で率直に書ける状態を優先し、フォローが欲しい人だけ名乗る形にします
- 5⚠️ 事後に「参加前」を聞く場合、回想バイアスが乗る — 絶対値ではなく差分の傾向として扱います
配布の仕方でも回答の質が変わる
Slackで配るときは、何を知りたいかを明示します。「特に知りたいのは『いま仕事で面倒だと感じている作業』です。AIで解けるかどうかはこちらで考えるので、思いつくままに書いてもらえると助かります。次回の題材にさせてください」——「アンケートにご協力ください」だけだと、面倒な作業の欄は埋まりません。その質問が何に使われるのかを伝えると、回答の質が上がります。
第1回の反響:参加者の全員が「参加後の興味度は最高評価」
実際にどう受け止められたのかを、アンケートの数字で示します。参加6名・回答4名の結果です。
第1回アンケート結果(回答4名/参加6名)
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 満足度(1〜5) | 平均 4.75 |
| 参加後の興味度 | 平均 5.00(回答者全員が5) |
| 「自分の仕事で使えそう」度 | 平均 4.75 |
| 難易度/時間の長さ | 4/4 が「ちょうどよかった」 |
| 社内への推奨度 | ぜひすすめたい3/まあすすめたい1(否定ゼロ) |
注目してほしいのは、難易度と時間の評価が全員「ちょうどよかった」で揃っている点です。非エンジニアが参加する会で、この2つを外すと一気に離脱します。60〜75分・お酒ありという設計は、ここを狙って決めています。

そして、どのコンテンツが刺さったかも取っています。ここが次回の構成に直結します。
面白かったコンテンツ(複数選択・n=4)
| コンテンツ | 選択数 |
|---|---|
| グループディスカッション | 4 / 4 |
| 最新AIニュース共有 | 2 / 4 |
| 「本物 or AI」クイズ | 2 / 4 |
| 実演デモ | 1 / 4 |
| 懇親会での雑談 | 1 / 4 |
全員が選んだのはディスカッションでした。選んだ理由の原文がこれです。
参加者が挙げた理由(原文ベース)
- 「AIが発展しすぎて古代ローマの話が出たこと! AIとは真逆そうな人間の本能の話にまで広げられる皆さんに感激しました」
- 「人間は結局狩猟時代に戻るという言葉が、自分の中でかなり刺さった」
- 「AIって便利!で思考停止してはいけないなと、改めて感じました」
- 「AIに対する各メンバーの考え方を知ることができた。普段の業務では知り得ない範囲まで話ができた点がすごくよかった」
参加企業の担当者からも、当日「よりコアな哲学の話でもいいのかもしれない」という言葉が出ていました。アンケート結果と一致しています。
だから私たちは、議論の時間を削りません
AIの最新情報は、本人が検索すれば手に入ります。しかし同僚がAIについて何を考えているかは、その場でしか分かりません。「情報を提供する会」より「考えを交換する会」の方が、参加者の記憶に残る——これが第1回で得られた知見です。第2回以降は議論の比重を上げ、お題そのものの設計に時間をかけています。毎回アンケートで反響を取り、次回の構成に反映する運用にしているので、回を重ねるごとに その会社に合った形へ寄っていきます。
本命の収穫は「面倒な作業」の記述
アンケートで最も価値があったのは、満足度でも勝ちコンテンツでもありません。「いま面倒だと感じている作業」の自由記述でした。
実際に挙がった作業と、こちらの見立て
| 挙がった作業(原文ベース) | 見立て |
|---|---|
| 「DM発送先のリストアップ。出先で立ち寄れそうな、参画会社や過去にトライアル利用した会社のピックアップ」 | ◎ 最有力。「地理条件 × 取引ステータス」での営業リスト自動生成。次のPoC第一候補 |
| 「日々のルーティン作業を生成AIに指示して、うまく稼働しなかった時の修正対応」 | ◎ 全社共通の詰まり。「作る」より「壊れたときに直す」が習得できていない |
| 「タスク管理、作成物」 | △ 抽象度が高く、個別ヒアリングが必要 |
| 「人と会うことで思考の幅が広がると思っている。しかし会社に行くのがだるい」 | – AI施策の対象外。ただし人と会う場に価値があるという証言で、イベント施策を続ける根拠になる |
2つ目は重要な発見でした。AIツールを配っただけでは、壊れたときに直せない。これは研修テーマとして最適で、AIで作った業務ツールは、半年後に誰が直すのかで書いた問題と同じ根っこです。そして4つ目のような、一見「対象外」の回答も捨てません。施策を続けるかどうかの判断材料になります。
月1で続けると何が起きるか
この勉強会は、単発のイベントではなくAI推進の仕組みの一部として動いています。実際にこの企業では、全社ワークショップでのアイデア創出、AI推進担当者の育成、業務Agentの実装と並走する形で勉強会が機能しています。社内にAIの話ができる場が毎月あること自体が、推進担当者を孤立させない仕組みになります。
第1回の後、参加者から出てきた「今後やってみたいこと」
| やってみたいこと | 人数 |
|---|---|
| 次回の勉強会にも参加したい | 2 |
| 実際に手を動かすハンズオン・研修に参加したい | 2 |
| 自分の業務での使い方を個別に相談したい | 1 |
| 社内AI情報チャンネルで最新ネタを受け取りたい | 1 |
次回テーマの要望も、具体的なものが出ています。「エージェントの作り方、種類や幅があれば」「自社の業界で、海外ではAIがどう使われているか」「他社事例で自社に使えそうなこと」。入口の会を1回やると、次の施策の要望が参加者側から出てくる。これが月1で続ける意味です。
自社でやる場合のチェックリスト
そのまま設計に使えます
- 1目的を「知識を増やす」ではなく「認識が変わる」に置いた
- 2ニュースは一次情報まで裏を取り、動画か数字を見せる
- 3デモは自社の実業務を題材にする(汎用サンプルでは刺さらない)
- 4デモはBefore/Afterの対比で見せる
- 5ライブデモの保険(録画・完成版ファイル)を用意した
- 6ディスカッションは画用紙を配る(手を動かすと全員参加になる)
- 7お題は「広い問い」→「自社の話」の順にする
- 8アンケートで「面倒だと感じている作業」を必ず聞く
- 9アンケートにネガティブな選択肢を入れた
- 10誰の認識を動かしたいのかを、事前に決めた(ここを決めないと数字が読めません)
- 11出てきた「面倒な作業」を、次回の題材に反映する
下から2番目が、設計段階で最も効きます。「誰の認識を動かしたいのか」を先に決めておくと、アンケートの数字がそのまま次の打ち手に変わります。
まとめ
社内AI勉強会を続けるコツは、参加者が「自分の業務」を持ち帰れる構成にすることです。ニュースとクイズで場を温め、自社業務のデモで現実味を出し、議論で自分ごとにする。そしてアンケートで次の題材を回収する——この循環が回り出すと、月1で続きます。
第1回で最も反響が大きかったのは、参加者同士の議論でした。情報はあとから調べられますが、同僚の考えはその場でしか聞けません。だから私たちは、回を重ねるごとにアンケートの反響を読んで構成を組み替えます。貴社でやる場合も、2回目以降はその会社に合った形へ寄せていきます。
ワークショップとの使い分けはAI活用ワークショップの選び方に、推進を1人で任されている方向けの動き方はAI推進をひとりで任された人が、最初にやるべきことにまとめています。
掲載内容について
クライアントの許諾範囲で、社名は伏せて業種表記としています。進行の構成・お題・アンケート設計・第1回の実データは、実際の実施記録にもとづきます。
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