AI活用ワークショップで、現場から37個のアイデアが出た日──実施レポート
「AIで何ができるか分からない」状態の会社で、2.5時間のワークショップを実施しました。現場のリーダーから37個の活用アイデアが出て、うち33件を実現可能性×インパクトで分類するまでの進め方を、当日の進行・投影した内容・提出した報告書の結論まで含めて公開します。
AI推進が停滞してしまう企業の多くは、推進する意志がないわけではありません。「何から手をつけるべきか」を決める場が社内にないだけです。私たちがワークショップを最初の足がかりとして提案しているのは、まさにこのボトルネックを解消するためです。
本記事は、社員食堂やケータリング事業を手がけるフードサービス企業様で実施した、約2.5時間のワークショップのレポートです。当日の進行スケジュール、投影資料の内容、現場から出たアイデア、提出した最終報告書の示唆にいたるまで、実際の記録に基づいてお伝えします。
この記事でわかること
- 2.5時間の具体的な進行(何を、何分で、どう進めたか)
- インプットで何を見せたか(業界の最新事例をどう集めるか)
- 現場から出た37個のアイデアをどう分類し、着手順を決めたか
- 報告書に書いた示唆と、次の提案
背景:AI推進担当が、まだ社内にいなかった
クライアント企業様は、社員食堂やキャラクターカフェの企画・運営、各種ケータリングを手がけるフードサービス企業です。すでにシフト作成をAIで自動化するプロジェクトは動いていましたが、それはあくまで「個別業務の自動化」であり、「会社全体としてAIをどう活用していくか」という方針は未着手の状態でした。専任のAI推進担当もまだ置かれていません。
この状況で単に「AI活用を進めましょう」と号令をかけても、現場は動きません。いま必要なのは、現場のリーダーたちが日々の業務を持ち寄り、その場で具体的な使い道を見出す体験です。そこで、社内リーダー7名を対象とした約2.5時間のワークショップを設計しました。
企画段階で決めたゴール
- 最新のAI動向を理解し、飲食業界で何ができるかのイメージを持つ
- すでに動いているシフトAIプロジェクトの進捗と成果を、社内で共有する
- 参加者自身の業務からAI化できるアイデアを洗い出し、優先順位をつける
成功指標も、事前に決めておく
やりっぱなしにしないために、終わった時点で何が揃っていれば成功かを先に定義します。この回では①参加者全員が「自分の業務で1つ以上、AIでできそうなこと」を特定できている ②「実現可能性大 × インパクト大」のアイデアが各グループ3つ以上出ている ③次に取り組むテーマが1〜2個決まっている ④AI推進担当者の候補が挙がっている——の4つを置きました。
当日の構成:インプット70分、アイデアレーション65分
実際のタイムテーブル
| 時間 | パート | 中身 |
|---|---|---|
| 11:00〜11:05 | オープニング | 会社紹介・本日のゴール共有 |
| 11:05〜11:30(25分) | 飲食業界のAI最新事例 | 顧客接点/バックオフィスの2軸で事例を紹介 |
| 11:30〜11:40(10分) | AIエージェントとは | チャット型→RAG→ワークフロー→エージェントの進化を解説 |
| 11:40〜12:00(20分) | 生成AIツール紹介 | Google環境向けのツールと使い分け |
| 12:00〜12:10(10分) | 自社プロジェクトの進捗共有 | シフトAIで工数90%削減の実績を社内に認知してもらう |
| 12:10〜12:20 | 休憩 | — |
| 12:20〜12:30(10分) | 業務の洗い出し(個人ワーク) | 付箋に自分の業務を書き出す |
| 12:30〜12:55(25分) | グループマッピング | 2グループに分かれ、2軸マトリクスに配置 |
| 12:55〜13:10(15分) | グループ発表 | 各グループ7〜8分 |
| 13:10〜13:25(15分) | まとめ・Next Action | 着手テーマの選定、推進担当の話 |
インプットに70分、アウトプットに65分。全体のバランスはほぼ半々です。

インプットで何を見せたか
ここが準備において最も労力を要するパートです。一般的な「AIの可能性」といった抽象論では、現場のメンバーは自分ごととして捉えられません。その業界でいま実際に何が起きているのかを、一次情報に基づいて持ち込みます。
「顧客接点がAIに置き換わり始めている」
予約・注文・問い合わせといった、お客様との接点にAIが入ってきている話です。
- 大手グルメサイト × 生成AI企業の提携(2025年2月)——AIがブラウザを自律操作し、店を探して予約フォームを入力し、予約完了まで行う
- 音声AIスタッフによる予約電話の自動対応——電話応対負担を50%削減、利用者の約9割が好評価
- AIの提案から来店する率が約60%(2026年1月・全国1,049名調査)。SNS・インフルエンサー推薦(50%未満)を上回る
「オペレーション・バックオフィスのAI化」
発注・シフト・仕込みといった裏側の話です。
- 大手うどんチェーンが全823店舗にAI需要予測を導入——POSデータ+気象データから店舗別・日別・時間帯別の客数を予測し、発注・シフト・仕込み量を最適化
- マニュアルをAIが研修動画に自動変換——60ヶ国語対応、新人教育期間が1週間から半分に短縮
⚠️ 事例は必ず一次情報のURLまで確認します。プレスリリース・企業の公式発表まで辿り、数字の出どころを押さえる。社内向けの会でも、間違った情報を配れば信頼を失います。企画書の段階で、各事例に参照URLを添えて管理しています。
軸3:自社の事例を、社内に認知してもらう
見落とされがちですが、これが効きます。すでに動いていたシフトAIプロジェクトの進捗を、この場で共有しました。シフト作成業務の工数を90%削減という実績です。参加者にとっては「どこか遠い会社の話」ではなく、自社ですでに起きていることになります。社内に成功事例があるなら、ワークショップはそれを全社に知らせる場としても使えます。
軸4:ツールは「自社の環境」に合わせて絞る。このお客様はGoogle Workspace環境だったので、Geminiを中心に紹介しました。網羅的なツール比較はしません。明日から自社で使えるものだけに絞ります。紹介したのは、社内資料をアップロードして要約・Q&Aを生成するツール、テキスト指示で画像を作成・編集できる機能、Workspaceアプリをつないで業務を自動化するノーコードツールなど。あわせて、PC内のファイルに直接アクセスして実際に作業を行うタイプのツールも、非エンジニアの業務に広がっている例として紹介しています。
アイデアレーション:付箋から2軸マトリクスへ
第2部は、参加者が手を動かす時間です。まず付箋を配り、1付箋1業務で自分の業務を思いつく限り書き出してもらいます(10分)。大きな業務だけでなく、日常の細かいタスクも含めるのがポイントです。
最初にこう宣言します
「実現可能性については我々からフィードバックをするので、まずは『できないかも』と思わず、思いついたものを発散してください」——判定は専門家がやるので、現場は制約なく出していい。この役割分担を最初に伝えておくと、出てくる量が変わります。
次に、参加者を2グループに分け、各グループに模造紙とマーカーを渡します。実現可能性(縦軸)× 業務インパクト(横軸)のマトリクスを描き、付箋を配置していきます(25分)。ここで私たちは各グループを巡回し、その場でフィードバックします。この巡回が、外部が入る価値の中心です。
巡回中に実際に伝えていること
| 実際に伝えたこと | 意味 |
|---|---|
| 「これはChatGPTで今日からできます」 | 開発不要。明日から始められる |
| 「これはエージェント開発が必要ですが、シフトAIと同じ手法で実現可能です」 | 作れる。既存の実績と地続きだと示す |
| 「これは現時点では難しいですが、半年後には可能かもしれません」 | 今はできない。ただし諦める話ではない |
現場の人は、自分のアイデアが「できるのか、できないのか」を判断できません。そこを即答できる人がその場にいるかどうかで、議論の密度がまったく変わります。最後に各グループ7〜8分で、マトリクスの全体像と「右上」のアイデアを重点的に発表してもらいました。
結果:37個のアイデアと、着手順
実際に出たアイデアは37個。うち33件を優先度別の4象限に分類し、施策名・対象職種・概要・実装イメージ・現状の課題まで書き込んだ一覧として、報告書にまとめてお渡ししました。

優先度別の内訳
| 象限 | 優先度 | 件数 |
|---|---|---|
| 実現可能性 大 × インパクト 大 | S | 8件 |
| 実現可能性 小 × インパクト 大 | A | 9件 |
| 実現可能性 大 × インパクト 小 | B | 11件 |
| 実現可能性 小 × インパクト 小 | C | 5件 |
最優先(S)と判定した8件
| 施策名 | 対象職種 |
|---|---|
| 見積もり・請求書・契約書・定例会資料の作成 | 営業事務/経理担当 |
| 議事録の作成(Web会議以外も含む) | 全職種 |
| 秘書AI(メール対応・日程調整・情報収集) | 経営層/マネージャー |
| インシデント登録(Slackから自動検出・台帳登録) | 総務/管理部門 |
| ケータリング必要備品の一覧化 | ケータリング担当 |
| 新店立ち上げ時の試算 | 経営企画/店舗開発 |
| 講習会サポートAI(資料・テスト作成・出欠管理) | 人事/総務 |
| 日報の入力/月次報告書の作成 | 店長/エリアリーダー |
上位2つはどちらも「毎週発生していて、誰がやっても同じ結果になる作業」です。この条件に当てはまるものが、最初の着手先として最も外れません。
一覧には必ず「現状の課題・注意点」の欄を作る
たとえば書類自動生成なら「契約書は法務チェックが必須のため完全自動化は難しい」、議事録なら「対面会議の録音環境の整備が必要」「専門用語の認識精度」といった具合です。できることだけを並べた資料は、着手した瞬間に止まります。
報告書に書いた2つの示唆
実施して終わりではなく、得られた示唆を報告書にまとめて提出します。このワークショップでは2つありました。
示唆1:優先度Sの中にも、2種類ある
| 種類 | 該当する施策 | 必要なこと |
|---|---|---|
| 個人のAIツール活用で対応できる | 見積書・請求書作成、議事録作成、秘書AI、日報入力 | 使い方を覚えれば、今日から着手できる |
| データ整備・システム連携が前提 | インシデント登録(Slack連携)、ケータリング備品(過去データのDB化)、新店試算(店舗データの蓄積) | 仕組みを作る必要がある |
「AIツールを使えば即解決」ではなく、業務データの整備と仕組み化がセットで必要——ここを最初に分けておかないと、「やってみたけど進まない」が起きます。
示唆2:意欲はある。次に必要なのは「使い方」。参加者のアイデア出しは非常に能動的で、AIへの関心・意欲は十分にありました。次に埋めるべきは、「自分の業務で、どうプロンプトを打てばいいか」という実務レベルの情報です。概念の理解ではなく、手を動かす部分。この示唆を踏まえて、次のステップでは実際の業務課題を題材にした即興デモ形式が有効だと報告書に明記しました。
結論:AI推進担当者を軸に、開発と研修を並行させる
報告書の最後に書いた提案です。アイデアを実現するには「データ整備・システム連携」と「個人のAI活用スキル」の両面を埋める必要があります。そこで、社内にAI推進担当者を置き、その担当者を中心に2つのアプローチを同時に進めることを提案しました。
提案した2つのセグメント
| ① 自社に合わせたAI機能の開発 | ② 実務に即したAI活用研修 | |
|---|---|---|
| 対象 | データ整備・システム連携が必要な施策 | 使い方を学べば個人で対応できる施策 |
| 例 | インシデント登録、ケータリング備品一覧化、新店試算 | 見積書・請求書の作成、議事録作成、秘書AI的な活用、日報入力 |
| 進め方 | AI推進担当者を配置しデータ整理・システム連携を推進。優先度Sから1〜2件を選定してPoCから着手 | 実際の業務課題を題材にした即興デモ形式の研修。「この業務はこうプロンプトを打てばこうなる」を繰り返し伝える |
ワークショップの成果物は、アイデア一覧だけではありません。「次に何を、どういう体制でやるか」まで提案して、初めて入口として機能します。
ワークショップを最初の入口にする理由
この形が効く会社の条件
- AI推進担当がまだいない/決まったばかり — 何から手をつけるかを決める場が、社内に存在しない状態
- 職種横断でリーダーを集められる — 業務の幅が出ると、組織全体の課題が見えます
- 社内だけでは、会議の予定が埋まらない
3つ目が特に大きい要因です。社内だけで「AI活用を考える会議」を設定しようとすると、全員忙しいので永久に後回しになります。外部との予定として確定させてしまえば、その日は必ず全員が集まる。ワークショップの価値の半分は、この強制力にあります。
そして半日で、アイデア一覧と優先度マトリクスという一番面倒なアウトプットが手元に残ります。あとはSの上から着手するだけの状態になる——ここまでが、ワークショップという入口の役割です。
準備物(自社でやる場合の参考に)
| 実施側 | 発注側(会場) |
|---|---|
| プレゼン資料、デモ用PC | 会場手配・プロジェクター |
| 付箋(2色以上)、マーカー | 参加者リスト(名前・所属・役職) |
| マトリクス用の模造紙またはホワイトボード(グループ数分) | — |
| タイマー(ワーク時間の管理用) | — |
道具より、巡回して実現可能性を即答できる人がいるかの方が、成果を左右します。
ワークショップの後に社内でAIの話を続ける仕組みは、月1の社内AI勉強会にまとめています。発注先を選ぶ基準はAI活用ワークショップの選び方、推進担当になった方の動き方はAI推進をひとりで任された人が、最初にやるべきことをどうぞ。
掲載内容について
クライアントの許諾範囲で、社名は伏せて業種表記としています。当日の進行・アイデアの具体例と件数・報告書の内容は、実際の実施記録にもとづきます。インプットで紹介した他社事例は、各社の公開情報(プレスリリース等)によります。
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